「千駄ヶ谷の受け師」「将棋の強いおじさん」こと木村一基王位の生き様、生い立ち、東京新聞連載記事に加筆・修正した内容になっている。
将棋に馴染みのない方には、7/1(水)から行われる王位戦で藤井七段が挑戦する相手、といった方がわかりやすいか。
中学生でプロになった天才藤井聡太とは対照的に、才能を認められながらも23歳という遅咲きのデビュー、そこから勝利を重ねるも、ここ一番で何故か勝てない。
7度目の挑戦、そして豊島名人とのフルセットを制して、46歳という史上最年長でタイトルを取った苦労人。
「ファンがあっての将棋」が身上で、「解説名人」と言われるほど笑いが絶えず、しかもわかりやすい解説で人を魅了する。
そして義理人情を大切にする。
将棋とは最後は自分で決断する必要がある。孤独との闘いで、メンタルがやられてしまうことも多いが、この本を通じて、棋士同士はライバルでありながらここまで励まし合って生きているんだな、ライバルでありながら応援したくなるものなんだな、と涙なしには読めなかった。
それが「木村一基」の人柄の為せる業である点も大きいが。
自分との「老い」や「衰え」と向き合い、ランニングでの体力づくりを怠らない「中年の星」は、効率や最短を求める、現代に問いかけをしている。
AIの台頭を認めつつも、それをうまく取り入れ、最後は人間の感性を信じるのが木村流。
どういう答えを出すかは読み手によって異なるかもしれないが、将棋のルールを知らない人でも分かりやすく書かれており、最後の王位戦七番勝負の解説は将棋ファン必見。
この時世に色々と悩んでいる我々に勇気と希望を与えてくれる書。
総評:★★★★★