コンセルトヘボウ主義

世界最高のオーケストラ、コンセルトヘボウのことを中心に、個人的に注目している演奏家や音源について書いていきます。

【コンセルトヘボウ主義】ベルナルド・ハイティンク考

久々にまとまったクラシックの記事を書く。

 

ハイティンクがなくなった直後に書きたかったが、仕事が多忙すぎて、だいぶすり減っていたので今に至った。

引退してからはその日が遅かれ早かれ来るとは覚悟していても、やはり悲しいものは悲しい。

最後はロンドンの自宅で家族に看取られて亡くなったそうだ。

 

ハイティンクに目覚めたのは、メンゲルベルクに出会ってから。

もちろんそれまで存在は知っていたけど、日本人の某評論家が「凡庸」だの言っていたし、CDが売られていたけど、進んで聴くことはなかった。

刷り込みとは怖い。

 

メンゲルベルクの音源は録音の圧倒的なハンデを乗り越えて、自分の音楽的価値観をいい意味でぶち壊し、彼との出会いで「縦の線」から「横の線」「芳醇な響き」へのシフトいった。

カラヤンムラヴィンスキーチェリビダッケのような縦の線に好きがない「構築美」から「横の線」「音色」へのパラダイムシフトである。

自分の年齢の変化もあるだろう。

 

メンゲルベルクきっかけに、ベイヌムハイティンクと知るようになり、「ハイティンカー」として現場にも足を運ぶことになる。

本ブログが「コンセルトヘボウ主義」となったのもハイティンクがきっかけなのは間違いない。

 

ハイティンクは天才肌というよりは、真面目でコツコツと努力し、オランダ人がコンセルトヘボウを継ぐという不文律があった時代にはオケが彼が支えた。

そして、70年代後半から80年代後半、コンセルトヘボウの常任指揮者を辞すまでの間のコンセルトヘボウの音色が一番好きだ。

他のオケ(例えばロンドン・フィルベルリン・フィル)でも同時代の彼の凄さは光るが、やっぱりコンセルトヘボウにしか出せない音、表現がある。

そして、ライブが熱い。個人的にはクリスマスマチネーの一連のマーラー録音が好きで、87年のマラ9はよく聴いている。

 


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一方でコンセルトヘボウを辞した後は、一見温厚そうに見えても気難しい面を出して、コンセルトヘボウとは喧嘩と絶縁/復縁を数度繰り返した。

シュターツカペレ・ドレスデンはわずか2-3年ほどで辞任。この時はルイージに関する扱いで意見が合わなかったとか。

コンセルトヘボウとは1988年の段階でもハイティンク自身は辞めるつもりはなかったそうで、これがこの後のキャリアに大きく影響したのは間違いない。

 

指揮者としての全盛期は80年代前半から98年頃までか。

特にベルリン・フィルとのマーラーはコンセルトヘボウと違った「無双」のドライヴ感があり、映像で見ると指揮者もオケも余裕綽々。

これを見るとベルリン・フィルマーラー全集完成させてほしかったし、カラヤンの後任になっていれば、もっといい遺産が残せたのかなと思ってしまう。

 

ハイティンクの演奏会に初めて足を運んだのはシカゴ交響楽団とのマラ6。

確かに凄かったが、その時にはそこまで感銘は受けなかった(席がP席というのもあるだろうけど。ハンマー直撃)。

 

その後は現地コンセルトヘボウでの2012年のブルックナー5番、同じく2013年バイエルン放送交響楽団とのブラ1、「ドン・キホーテ」、2013年の同楽団との「天地創造」が最後だったと思う。

ブルックナーブラームスには往年のような「凄み」はなかったが、「天地創造」はこの曲へのイメージを変えてくれる素晴らしい演奏だったと思う。

 

思い出からいくつか。

 

ブルックナーの5番の演奏会後に奥さんに写真撮って頂いたツーショット。

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コンセルトヘボウの歴史が書かれた本にサインを頂いた。
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2000年以降はコントロールも乱れていたのは感じていたが、最後にベートーヴェンの第9で最後の崇高な演奏を聴かせてくれたし、ウィーン・フィルやオランダ放送フィルとのブル7は素晴らしい。

 

コンセルトヘボウとは最後までわだかまりが残ったままの引退で、最後のコンサートに同オケを選ばなかったこと、引退会見で「コンセルトヘボウについては何も語ることはない」と言っていたのは残念だが、同オケがハイティンクの功績や未発掘、未公開の音源を出してくれることを期待している。

個人的には、コンセルトヘボウとの最後の公演になった、マーラーの9番(初日の公演後に転倒して、残りの2日はカレル・ハサンに交代)。

これまた同じ曲だが、PHILIPSとの録音して結局世に出なかったマーラーの9番。

これにはライブ録音もあるはずなので、RBBあたりで収録していてもおかしくないはず。

 

ハイティンクヤンソンスといった指揮者はコロナ禍になる直前に引退、急逝した。

これが一つの時代の区切りで、ある意味よかったのかもしれないが、ハイティンクにはもう少し余暇を楽しんで欲しかった思いもある。

 

自分はコロナ禍ですっかりコンサートには足を運ばなくなり、それを機に不満を持っていた職場から転職をした。

収入は大幅に増え、仕事も大変とはいえど充実はしているし、生活の「断捨離」はできたと思っているが、やっぱり自分は幼い頃からクラシックが好きで、ハイティンクが亡くなったとしてもコンサートに再度足を運びたいと再度思い始めている。

仕事が多忙過ぎて、以前のように足は運べないないかもしれないが、世の中が少しずつ戻ってきているので、渡航規制やマスク規制が解けたら、またヨーロッパには足を運びたい。

その頃にはコンセルトヘボウのシェフも決まっているだろうか。