2026年10月15日(木) すみだトリフォニーホール 小ホール



今日も万難を排して、伊東裕さんのチェロ・リサイタルへ。
いや、もう何と書けばよいのだろう。
長年伊東さんの演奏を追いかけてきたけれど、今日ほど強烈な印象を受けたことはなかったかもしれない。
私はいつも、演奏会に行く前にあえて予習をしない。作品についての先入観を持たず、その場で初めて出会う音楽を楽しみたいから。
今日は、そのスタイルで本当によかったと思う。
冒頭のドビュッシーから、もう圧倒されっぱなしだった。
少しジャズを思わせるようなピッツィカート、自在に変化する音色、そして驚くほど豊かな表情。
伊東さんって、こんなにも自由に、楽しそうに弾く人だったのか。
もちろん、伊東さんの音色の美しさや、作為のない自然なフレージング、豊かなカンタービレは以前から大好きだった。しかし今日は、それだけでは語り尽くせない魅力を見せつけられた。
続くプーランクのチェロ・ソナタも実に素晴らしい。
第1楽章の夢のようなメロディー、特に第2楽章の繊細な美しさが心に残った。伊東さんの持つ純粋で自然な歌い回しが、音楽に見事に溶け込んでいたように思う。
休憩後には、秋元孝介さんによるショスタコーヴィチ《24の前奏曲とフーガ》から第24番。こちらも素晴らしい演奏だった。
ロシア作品を得意とする秋元さんらしい、説得力のある演奏。チェロとピアノのデュオだけでなく、秋元さんのピアニストとしての魅力にも触れられた。
そして、最後のプロコフィエフ。
これがもう、圧巻だった。
冒頭の強烈な低音から、ド派手なピッツィカート。そして、そこから一転して現れる明るい音色。
何という鮮烈な音楽なのだろう。
伊東さんの低音の迫力は以前から大きな魅力だと思っていたけれど、ここまで大胆で、表情豊かで、強烈な演奏を聴かせてくれるとは。
長年聴いてきた伊東さんの演奏の中でも、おそらく最も強い衝撃を受けたと思う。
そして第1楽章中間部の美しさ。
プーランクとプロコフィエフは親しかったそうだが、両者にはどこか通じ合う美しさを感じた。フランスとロシア、作風も異なる二人の音楽が、不思議なところで響き合っているように思えた。
アンコール前のトークによれば、今回のプログラムを組むにあたっては、かなり悩まれたそうだ。
まず、かねてから弾きたいと思っていたプロコフィエフがあり、そこから彼と親しかったプーランクを組み合わせたのだという。
その話を聞いて、心から納得した。
あれほどまでに生き生きとした演奏を聴かされたのだから。
伊東さんはもともとドイツものが大好きなのだそうだが、私にとってはフォーレやドビュッシーといったフランス作品を弾く伊東さんの印象も強い。
そして今日、ロシアものも実は非常に得意なのではないかと思わされた。
トークの中で、ロシア作品を得意とする秋元さんへの賛辞を忘れなかったことも印象的だった。
伊東さんはトリオでも、オーケストラでも、それぞれの場に応じた演奏を聴かせてくれる。
でも、ソロを弾くときの伊東さんは、何よりも楽しそうなのだ。
音楽を奏でる喜びが、全身から溢れ出しているように見える。
今日の演奏は、まさにその極致だったのではないだろうか。
そしてアンコールは、ドビュッシーの《美しい夕暮れ》。
冒頭のドビュッシーから始まり、最後もドビュッシーで締めくくられた、まさに夢のような時間だった。
予習をしなかったからこそ、プロコフィエフという作曲家の偉大さと、伊東裕という演奏家の凄さを、同時に思い知らされた。
長年聴いてきたつもりでも、まだ知らなかった伊東裕の世界があった。
こういう瞬間があるから、演奏会通いはやめられない。


演奏曲目
伊東裕(チェロ)/秋元孝介(ピアノ)
クロード・ドビュッシー:チェロ・ソナタ ニ短調
第1楽章 プロローグ
第2楽章 セレナード
第3楽章 フィナーレ
フランシス・プーランク:チェロ・ソナタ
第1楽章 アレグロ ― 行進曲のテンポで
第2楽章 カヴァティーヌ
第3楽章 バラビル
第4楽章 フィナーレ
休憩
ドミートリイ・ショスタコーヴィチ:《24の前奏曲とフーガ》Op.87より 第24番 ニ短調
ピアノ独奏:秋元孝介
セルゲイ・プロコフィエフ:チェロ・ソナタ ハ長調 Op.119
第1楽章 アンダンテ・グラーヴェ
第2楽章 モデラート
第3楽章 アレグロ・マ・ノン・トロッポ
アンコール
クロード・ドビュッシー:《美しい夕暮れ》
公演情報
2026年10月15日(木)19:00開演
すみだトリフォニーホール 小ホール